スケジュール

 歯医者と精神科のダブルブッキングをした上に、どちらの予約の存在も忘れていた。

 自分のことをマゾヒストだと思うのは、暴力的なセックスを好むからではなく、歯医者の診療に恐怖を覚えたことがないからだ。口の中に器具を突っ込まれていると興奮すら覚える。

 しかし、予約の存在は忘れていた。なぜなら、予約当時あらゆるスケジュールの記録を諦めていたからだ。手帳カバーの人工皮革の質感に苛立つようになって、開くことをやめた。iPhone純正のカレンダーは見にくかった。小指の爪ほどのキャパシティしか残されていなかった頭には、新しいカレンダーアプリに慣れる余裕がなかった。

 最近、iPadに手帳のアプリを入れた。Apple Pencilを使って手書きで記入することを前提とした作り。限りなく紙の手帳に使い心地が近く、気に入った。約半年ぶりに、スケジュールを記録することができたのだ。

 日週月とページを切り替えて、予定を書き入れる。試験の日。レポート課題の締め切り。バイトのシフト。友達と会う予定。歯医者の予約。未来が実体を持つようになり、試験が終わったらしたいことを余白に書き込んだ。部屋の模様替え。明日はオニオングラタンスープを作れたらいいな。

 この手帳アプリを来月にも習慣的に開けているかは疑わしいのだが、ひとまずはこれでいい。