甘味が感じられるようにと、薄く水で割ったウイスキーはきれいな黄金色だった。机の上で埃をかぶっている眼鏡の縁の淡いゴールドに似ている。ゴールデンレトリバーの毛並みもほうふつとさせた。そうはいっても実際に目にしたことのあるゴールデンレトリバーはたったの一匹だ。代々木の狭いマンションで商われている犬カフェのたしかメスで、元気がなく視線が定まっていなかった。数時間ほど滞在したが、一度も吠えなかったし、立ち上がらなかったと思う。あれから動物と接するのが後ろめたくなったような気がする。10年近く経った今では、厚かましくペットを飼っているが、それにしてもなお。

 試験が終わった。試験が終わるたびにここに何かしら残している。今回の試験は壮観なほど出来が悪かった。原因と対策とかは社会みたいで野暮なのでここには書けないけれど、心から笑える、まあちょっと深刻そうな顔で心配もされる出来だった。毎度、授業開始時刻の直前まで課題に追われる私に「大変な課題なんてせいぜい数か月でしょう、それを頑張れないやつがこの先何十年とある社会で頑張ばれるわけがない」と言い放った彼は、設計課題の提出物が学科の優秀作品に選出されて、教授陣と全学年の聴講者の前で発表をした。プライドと努力の人なのに、プライドと努力の人だからか、名誉を受けても誇りを覗かせない。その様子にいつも拍手を送りたくなる。ベッドの中でZOOMに接続されながら、負け惜しみの笑いを堪えるのが大変だった。