土曜の午後

住宅街を抜けた先には池があり、夥しい数のボートが停泊している。辺りには人々がゆらゆらと漂っている。ある一人は強い日差しに立ち眩みがした。

公園は入り口からしばらく通路が狭く、通行人同士は肩が触れ合いそうだった。

低中木から高木が植わった区域に差し掛かると風景は色を変える。炎天下から見る光と、日陰の暗がりから見る光とでは位置的には同じ部分でもその内容は大きく異なる。照る柳と水面の反射のきらめき。木漏れ日の美しさに通ずる、捉えどころのない水と光と植物の神性がたしかにあった。

池には赤いボート、スワンボートが点々と浮かぶ。ご存じの通り、スワンボートは足で漕がなければならないので、びしゃびしゃと音がし、不格好である。漕ぐ人々の気怠さもその音には含まれている。あるスワンボートもまた同様に音がしていたが、中の二人が顔を寄せ合う間は消えた。そして音は再び始まった。向こう岸からは豪奢な、しかし寂れた雰囲気の洋館が彼らを見下ろしていた。

小さなステージと客席にはバイオリンの音色が響いていた。奏者は服装に不釣り合いな帽子を被っている。どこからともなく赤子は泣き出す。別の子供はサッカーボールを手放した。それを拾って返す青年に、子供は感謝の素振りを見せない。

空を飛行機が繰り返し通る。

池は緑色に濁っている。小指ほどの大きさの魚なら住んでいる。

公園の側の酒屋の前にはベンチがあった。他人同士の二人が他人同士のまま酒を飲んでいる。女が煙草を片手に急に屈みこむと胸元にはポルノから飛び出したかような深い谷間が見えた。私は勃起できなかった。